
脇芽には、収量アップにつながるいろいろな活用法があるのでご紹介します
トマトの生育が旺盛になってくると、葉の付け根から次々と「脇芽(わきめ)」が伸びてきます。
通常の管理では、主枝に栄養を集中させるために見つけ次第すぐに摘み取るのが鉄則ですが、青々と勢いのある脇芽をそのまま捨ててしまうのは、どこかもったいないと感じる方も多いのではないでしょうか。
実は、トマトの脇芽にはただ処分するだけにとどまらない、非常に多彩な活用ルートが存在します。
単なる「ゴミ」として扱われがちな脇芽ですが、その強い生命力を上手に生かせば、栽培の安全性を高めたり、収穫量を劇的に増やしたり、さらには一歩進んだ実験的な栽培へ挑戦するための絶好の資材へと生まれ変わります。
今回は、摘み取ったトマトの脇芽を120%有効に使い切るための具体的なアイデアと、知っておくと得するテクニックをご紹介します。
■ 挿し木による新苗の作成とメリット
ある程度大きく育った脇芽を摘み取った際、もっとも実用的でおすすめな活用法が「挿し木(さしき)」による予備苗作りです。
トマトは非常に再生能力が強い植物であるため、土や水に挿しておくだけで比較的簡単に発根し、独立した新しい苗として育てることができます。
どれほどベテランの手で木を管理していても、家庭菜園にトラブルは付きものです。
予期せぬ病気や害虫の被害で株の調子が急激に悪化することもあれば、夏以降の台風シーズンには強風で主枝がポッキリと折れてしまうリスクも常に付きまといます。
そんな時、手元に脇芽から育てた「バックアップ苗」が数鉢あれば、万が一の事態が起きてもすぐに栽培をリカバリーできるため非常に安心です。

脇芽をとった品種の株元に挿せば、品種の間違えを防げます
また、栽培スペースに予期せぬ空きができた場合や、お気に入りの品種をさらに増産したいという場面でもこの手法は威力を発揮します。
シーズン中盤以降になると、ホームセンターなどの店頭にはトマトの苗が並ばなくなりますが、手元の脇芽を使えばいつでも無料で新しい株を手に入れることができます。
種から育てる場合と比較しても初期の生長スピードが圧倒的に早く、生育環境さえ整えてあげれば、元となった親株と変わらないほどの豊富な収穫量を十分に狙うことが可能です。
なお、挿し木の活着率(根付く確率)を高めるためのポイントとして、盛夏の酷暑期を迎える前の、まだ比較的過ごしやすい時期に作業を行うと失敗が少なくなります。
■ 主枝を増やす複数仕立て管理のコツ
脇芽を株から切り離さず、そのまま畑の上で有効活用するアプローチが「複数仕立て(多本仕立て)」による栽培です。
家庭菜園の基本テキストなどでは、一本の軸だけをまっすぐ伸ばす「1本仕立て」が主流として紹介されますが、あえて特定の力強い脇芽を摘まずに残し、第2、第3の主枝として独立させていく方法もあります。
この複数仕立てに挑戦する場合、目安となるのが「第一花房のすぐ真下」から湧き出てくる強力な脇芽です。この位置の脇芽はもっとも勢いが強く、残しておくことで最初の主枝と同じように立派な軸へと生長します。
それぞれの軸に次々と花芽がつき、実が成るため、仕立てが成功すれば1株あたりから得られる総収穫量は1本仕立ての時よりも大幅にアップします。

2本仕立て、去年も成功して収量が1.3倍以上になりました
ただし、主枝の数を増やすということは、それだけ植物全体が消費する水分や養分の量も跳ね上がることを意味します。
そのため、普段の1本仕立ての時よりも肥料や水やりの加減を多めにコントロールしていくことが安定多収の絶対条件となります。
さらに、枝葉が倍以上に広がる分、株の内部が密集して深刻な日照不足や通期不良を招きやすくなるという側面もあります。
増設した主枝ごとにしっかりと支柱を準備して斜め外側へと巧みに誘引し、光が株の中心部の奥深くまでしっかりと差し込むよう、適宜不要な葉をむしり取るなどのきめ細かな空間マネジメントが成功の鍵を握ります。
■ 栽培実験やインドア水耕への移行
親株から切り離して発根させた脇芽苗は、元の親株とは完全に異なるアプローチの「実験用株」として活用できる点も大きな魅力です。
わざわざ費用を払って購入した本苗を使って、失敗のリスクがある極端な栽培法を試すのは勇気が要るものですが、もともと捨てるはずだった脇芽が原資であれば、失敗を恐れずに思い切った技術検証にチャレンジできます。
例えば、地植えでオーソドックスに育てている親株に対し、脇芽苗の方はプランターを使って「水を限界まで絞り込んで糖度を極限まで高める過酷なフルーツトマト農法」を実験してみるといった、マニアックな比較栽培が手軽に楽しめます。
さらに、土を使わない「水耕栽培(ハイドロカルチャー)」へのシフトも極めて有効です。
特に夏の猛烈な暑さが本格化する時期に完成した挿し木苗であれば、あえて屋外に出さず、エアコンの効いた涼しい室内窓辺で水耕栽培に切り替えるという選択肢があります。
近年のトレンドとしては、室内の日照不足を補うために、省電力の「植物育成用高輝度LEDライト」を併用するスマートなインドア栽培を取り入れる園芸家が増えています。
この方法であれば、秋以降に外の気温が急激に低下して露地栽培のトマトが寿命を迎えて枯れてしまった後でも、寒風の及ばない暖かい室内環境でぬくぬくと保護できるため、通常よりもはるかに長い期間、冬場に至るまで新鮮なトマトの収穫を継続して楽しむことが可能になります。
ただし、脇芽から発根させて育苗する期間が必要になる分、最初の苗植え付け適期よりもどうしてもスタート時期が後ろにずれ込みます。
栽培のピークを迎える季節の気候が親株の時とは大きく異なってくるため、時期のズレがもたらす生育への影響だけは十分に頭に入れて計画を立てましょう。
■ プロの樹勢コントロール
最後に紹介するのは、プロのトマト農家も現場で密かに実践している、株全体の「樹勢(草勢)の強弱をコントロールする」ための高等テクニックです。
トマトを育てていると、肥料の効きすぎや天候の影響によって、茎が異常に太くなり、葉が内側に巻き込むように異様に波打つ、いわゆる「株が暴れている(木ボケ)」という状態に陥ることがあります。
このようにエネルギーが葉や茎の拡大ばかりに向かってしまうと、肝心の花が落ちて実が着かなくなるという最悪の事態を招きます。
この暴れる勢いを物理的に落ち着かせるためのブレーキ役として、脇芽の「摘み取るタイミング」を逆利用するアプローチが非常に効果的です。
通常は小さいうちにすぐかき取るべき脇芽ですが、株の勢いが強すぎて暴走しているサインが見られた場合は、あえてすぐには摘まずに、少し大きくなるまで泳がせておきます。

樹勢が強すぎるときは、脇芽を伸ばして暴走をコントロールすることができます
こうすることで、余剰な栄養分をその脇芽にわざと消費させ、株全体の急激なエネルギー上昇をなだらかに分散させることができます。
このコントロールにおいて最も重要となる戦略拠点が、先ほども登場した「第一花房の直下にある最強の脇芽」の扱いです。
まわりの小さな脇芽をすべて処理していっても、一向に株の暴れが収まらないような強烈な草勢の場合、この第一花房直下の最もパワーのある脇芽を最後に狙いを定めてバッサリと摘み取ることで、株に絶妙なショックが伝わり、驚くほどピタッと生育のバランスが安定の方向へと向かいます。
「伸びたらただ切る」という作業から一歩進み、株の健康状態を測るバランサーとして脇芽の長さをコントロールできるようになれば、トマト栽培の腕前は間違いなく上級者の領域へと到達するでしょう。